事例:ラジオ中継の機動力アップとコストダウンを求めて
~朝日放送様のIP化へのチャレンジ~

 朝日放送様(通称ABC)は、近畿圏を幅広くカバーするAMラジオ局・TV局です。設立は1951年(昭和26年)で、本社は大阪市福島区にあります。

 「放送」という音声が途切れてはいけない現場で、どのようにして日々進歩するテクノロジーを取り入れていくか?という課題に関して、朝日放送株式会社 技術局 ラジオ技術部 主任の平間淳司様にお話しを伺いました。

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ラジオ中継回線の現状

― 現在のラジオ中継回線について教えてください。
2025年ころまでには、電話で使用されている公衆交換電話網がIP網に変わる予定になっています。ラジオの局外中継回線に関して言えば、現状ではIP化が進んでいないところも多く、IPコーデックを利用した中継は固定設備間に限られているケースが多い印象です。これは、帯域保証される回線のコストが高く、常設でなければコストの問題で見合わないからです。
また、臨時の中継先においては、現状128kbpsと伝送容量は小さいですが帯域が確保されたISDN回線を事前に引いて対応するケースがまだまだ多いです。しかし近年代替手段として、光回線に注目し、閉域網内ベストエフォートにあたる回線サービスや、1Mbpsの帯域確保型サービスのひかり電話を中継回線に利用し、安定性やコストを維持しながら、より高音質な中継が実現できるようになってきています。ただし、他局との連携、汎用性という観点では、長年運用されてきたISDN回線に見合うレベルまでは進んでいないのが現状で、模索が続いています。

― それでは有線環境がない、無線での現場の中継はどうしているのでしょうか?
中継現場が屋外などの場合は、通常FMカーと呼ばれるアンテナを積んだ専用車で中継をしますが、場所によっては電波が届かない事もあります。無線が届かない場合は、FOMAの64kbpsデータ通信を利用した中継機器を活用しています。このケースも安定した品質を求めているからです。ただし、専用の機材なので、決して安いものではありません。音声品質と機動力の確保に加えて、コストの問題もあります。

モバイル利用時の課題

― モバイル環境は日々進化し、今では少し前の固定電話のブロードバンド回線よりも帯域があり、動画再生でさえも問題ありません。スマートフォンを利用し、4GのネットワークでIPコーデックは利用できないのでしょうか?
スマートフォンでは、LTE等、帯域としては十分なのですが、あくまでPublicなベストエフォートの回線です。そうはいっても、輻輳が起こる可能性は十分にありますし、人混みの中では確実に速度が低下します。放送に使用するという点では、下りの速度がいくらあってもダメで、上りの帯域が確保されていて、いったん接続されたら通信が途切れないことが必要条件です。

IP化へのチャレンジとU³ Liveの採用

― 現状では、IPコーデックを放送に使用することはできないのでしょうか?
現在では4G環境が普及していることもあり、携帯電話回線環境でも下りの帯域は十分にあります。さらに複数の回線を束ねるキャリアアグリゲーションの技術も出てきました。これらの事情を踏まえて、IPネットワークやスマートフォンを利用した放送環境を模索していく必要があります。
現在我々が理想とするものは、IPコーデックによる音声中継のソフト/ハードと伝送設備の切り分けです。現在のIPコーデックでは、ソフト/ハード一体型のものが殆どです。一体型のメリットはありますが、ハードの制約やソフトのアップグレードの問題、そして高価であることがデメリットです。今では放送用IPコーデックソフトや、IP電話用のアプリがマルチプラットフォームで存在します。これらとオーディオI/Fを含めたPCやスマホ等のハードを切り分けることで上記のデメリットを解消できると考えています。

一方、伝送設備に関して言えば、グローバルインターネットの環境下(LTE/WiMAX含む)での自前のSIPサーバーの構築と運用にはコストがかかり、さらにはNAT越えや音声品質とセキュリティの担保は、通信事業者ではない我々にとっては、技術的に非常に難しいものがあります。そこで、通信事業者への導入実績も豊富で、SIP接続用のクラウドサービスを提供しているネクストジェンの「U³ Live(ユーキューブライブ)」を採用しました。コストをいくらでもかけても良い、ということであればソリューションはありますが、グローバルIPアドレスを持たずにIPコーデックソフトを利用し、さらに端末を選ばずに中継に利用できるU³ Liveを採用してからあれこれ3年半ほど運用していますが、使い勝手の良さとコスト削減が可能なクラウドサービスとして重宝しています。
asahi-image2.png 実際の中継現場では、マイク用のオーディオI/Fを備えたポータブル機材に、IPコーデックソフトをインストールしたスマートフォンを接続して対応しています。ただし、出演者やレポーターが、現場でしゃべる声をそのまま放送に乗せていくのには、上りの帯域が十分確保できないケースがたまに発生してしまうため、バックアップ用途にとどまっています。しかし、下りについては帯域が十分確保できているケースがほとんどで、スタジオからの送り返し音声をディレイ少なく聴かせる運用としては重宝しています。現状ではキャリアの4G LTE回線で、コーデックにG.722を用いて、ほぼ毎日運用しています。
今後の希望ですが、通信事業者のサービスで下りの帯域は十分に担保されているのですが、上りの帯域は環境によって担保できないケースがしばしば発生してしまっている印象があります。上りの帯域を確保するサービスが出てくれば、我々だけでなく、他の業務用としても活用できるのではないかと考えており、是非とも実現して頂きたいと思っています。

U³ Liveを利用した中継放送イメージ

【朝日放送株式会社様について】
代表取締役社長:脇阪 聰史
所在地:大阪市福島区福島1-1-30
コーポレートサイト:http://asahi.co.jp/

朝日放送株式会社は、テレビやラジオなどによる情報配信を行う放送事業者。1951年11月にラジオ放送を、1956年12月にテレビ放送を開始。拠点は大阪本社のほか、東京、名古屋に支社を持ち、パリ、上海に海外支局を持つ。
1951年3月15日設立。1961年10月1日大阪証券取引所第二部上場。2013年7月16日市場統合により東京証券取引所第二部上場に移行。2014年10月10日東京証券取引所市場第一部の銘柄に指定。資本金5,299,800,000円(2017年3月31日現在)